大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所横須賀支部 昭和34年(わ)102号 判決 1959年10月26日

被告人 米兵(少年)Y(一九四二・二・一六生)

主文

被告人を懲役四年以上五年以下に処する。

押収してある棍棒壱本(昭和三十四年領第五十四号の一)はこれを没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(公訴棄却の主張に対する判断)

弁護人は、本件公訴事実中窃盗の点(昭和三十四年五月二十九日附追起訴状記載の公訴事実)は、アメリカ合衆国軍隊の構成員である被告人が、公務執行中、かつ、米海軍基地内においてなされたものであるから、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第十七条3(a)(ii)所定の「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」に該当し、合衆国の軍当局が裁判権を行使する第一次の権利を有し、日本国裁判所は第一次的裁判権がないから、右窃盗の点については、刑事訴訟法第三百三十八条第一号により、公訴棄却の判決をしなければならないものであると主張するけれども、右にいわゆる「公務執行中の作為又は不作為」とは、公務に就いている時間(勤務時間)中に行われたすべての所為(作為、不作為)を指すものではなく、その所為(作為、不作為)自体が公務の執行につき、その過程において行われたものであること又は公務執行の結果行われたものであることを要すものと解すべきであり、右窃盗の所為が、公務執行の過程において、又は、その結果として、行われたものではないとは、その行為の性質にかんがみ、おのずから明らかであるから、弁護人の右主張は採用できない。

よつて、進んで、本案について案ずるに、

(罪となるべき事実)

被告人は、アメリカ合衆国海軍軍鑑キャスター号乗組の米海軍二等水兵であるが、

第一、昭和三十四年四月四日午後四時半頃、横須賀港に入港中の右軍艦キャスター号から横須賀市内に上陸し、友人Mと共に飲酒などした後、右Mの予て交際のある同市○○町方面に居住するK子という女の家を訪ねることになり、同日午後八時頃同市○○町○丁目○番地先道路上で、同市○○町○番地横須賀○○○株式会社所属の自動車運転手○山○吉(当三十一年)の運転する乗用自動車に相共に乗車し、右運転手をして右自動車を右K子方附近の同市○○町○丁目○○番地先道路上まで運転させ、同所において右運転手からその乗車料金百円の支払の請求を受けるや、Mは所持金なきため、被告人に対しその支払方を依頼して先きに下事したが、その際同自動車内右側後部座席に居た被告人は右乗車料金の支払を免かれるため、後方からその前方左側前部運転台に居る右運転手の右側顔面を、所携の棍棒(直径約四・四糎、長さ約四三・五糎)(昭和三十四年領第五十四号の一)をもつて数回殴打し、同人に治療約十二日間を要する右顔面挫傷を負わせてその場から逃走し、よつて前記乗車料金百円の支払をなさず、財産上不法の利益を得

第二、同年五月六日午前十時三十分頃、横須賀市○町所在アメリカ合衆国海軍横須賀基地内○○○○、テーラーシヨップにおいて、○川○吉所有の腕時計一個(時価約一万円相当)を窃取したものである。

(証拠の標目) (略)

(法令の適用)

これを法律に照すに、被告人の判示所為中、第一の強盗傷人の点は刑法第二百三十六条第二項の罪を犯し人に傷害を負わせたものであるから同法第二百四十条前段に、第二の窃盗の点は同法第二百三十五条に各該当するので、前者につき所定刑中有期懲役刑を選択し、右は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条、第十四条を適用して重い判示第一の強盗傷人の罪につき定めた刑に併合罪の加重をし、犯情憫諒すべきものがあるから、同法第六十六条、第七十一条、第六十八条第三号を適用して酌量減軽をした刑期範囲内において処断すべきところ、被告人は二十歳に満たない者であるから、なお少年法第五十二条第一項を適用して、被告人を懲役四年以上五年以下に処し、押収してある棍棒壱本(昭和三十四年領第五十四号の一)は判示第一の強盗傷人の犯行の用に供したもので、犯人以外の者に属しないから、刑法第十九条第一項第二号、第二項に則りこれを没収し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い、全部これを被告人に負担させるものとする。

右の理由によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 上泉実 石渡満子 高沢広茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例